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#10 雑草に覆われた長いホーム 中ノ沢駅(長万部町・函館線)

無人駅めぐり

※中ノ沢駅は、2024年3月15日をもって、廃止となります(利用者僅少のため)。ご訪問はお早めに。

長万部(おしゃまんべ)駅から函館方面へ1駅。長万部の町から離れ、線路に山が迫る場所に、中ノ沢(なかのさわ)駅はあります。

駅に1両の普通列車が到着し、誰も乗降することがないまま発車していきました。列車本数が少ないのに、乗らなくていいの?と言われそうですが、ここには路線バスでやってきており、もともとこの列車には間に合わないと考えていたので、いいのです。急ぐ旅でもないですから、見送って駅を楽しみましょう。

駅舎は北海道らしく、車掌車を改造した簡素なものです。塗装は中ノ沢駅固有のもので、空色の駅舎が周囲の風景とマッチします。

太陽光の差し込む駅舎内。綺麗に保たれています。一部のベンチには座布団が敷かれていますが、これはおそらくJRのものではなく地元の方が置いてくれているものでしょう。

駅舎を通して駅前通りを見渡します。列車内からこの風景を見たら、降りてみたくなる人も多いのではないでしょうか。

駅前を見渡すだけでは人家は見当たりませんが、国道5号線まで出ると集落があります。国道5号線からさらに先に歩いていくと海が見えます。海の近くにも家があり、意外とこの付近に住んでいる方はいるようです。

国道沿いには函館バスのバス停「中の沢駅前」もあります。私はこのバス停から駅に来ました。バス停の名前は「の」がひらがななんですよね。

そんな場所ですが、駅自体は雑草と木々に囲まれ、大自然の中に身をおいている気分になります。だからと言って深い山中という雰囲気でもなく、開放感があって気持ちのいい駅です。

ホームは自然に還りつつありました。

駅名標もかなり年季が入っているようです。

使われていないホームにも駅名標が立っており、緑に囲まれています。かつての賑わいの名残である広い駅構内を、雑草が容赦なく埋め尽くしていっているようです。

この駅にとまる普通列車は1両か2両程度ですが、ホームは非常に長いです。かつての名残でしょう。ただ雑草が繁茂しており、どこがホームの端かは判断が難しいです。

またかつては中線があったこともわかりますね。上の写真でいうと、現在使われているのは写真中央に写っている線路と、向かい側のホームの外側(右側)にある線路の2線です。手前のホームと向かい側のホームの間にある、雑草の生い茂る空間が中線の跡です。

周囲も、中線跡も、ホームも緑に覆われています。

この中ノ沢駅、開業時は紋別駅という名前でした。しかし「もんべつ」はあまりにも北海道内の地名として多すぎるので改名されたようです。伊達紋別、日高町門別、オホーツク紋別など、確かに多いですよね。駅名が紋別駅から改名されたのが1914年、かつての名寄本線紋別駅が開業したのが1921年なので、名寄本線の紋別駅の開業に伴って改名された、というわけではなさそうですね。

開業は1904年、かなり歴史のある駅です。

そして肝心の現駅名、「中ノ沢」はどこから来たのか、という話ですが、ワルイ川という小さな川と紋別川の中間付近の沢であることに由来しているようです。ワルイ川なんて面白い名前ですよね。その由来ははっきりしていないようですが、アイヌ語地名は面白いものが多いです。最も、ワルイ川は漢字で「和類川」という表記もあり、アイヌ語由来ではなく和人が付けた可能性もあるそうで、なかなかややこしいことになっています。また近くにはポンワルイ川というのもあり、ポンはアイヌ語で「小さい」の意です。

聞こえてくるのは虫の声。ここに敷物を敷いてピクニックでもしたくなる雰囲気です。ただ時々通過する特急列車や貨物列車の風に飛ばされる危険があるので、実際にピクニックをするのは絶対にやめましょう。万が一でも敷物が飛ばされれば、列車にとって重大な危険になりかねません。それこそ非常にワルイ人になってしまいます。ポンはつきません。

ほら、特急列車がハイスピードで走り去っていきます。こんなのどかな自然の中ですが、駅であることを忘れてはいけませんね。

たくさんお客さんが乗っているようですが、窓の外に目をやってこの駅の通過に気づく人はどのくらいいるのでしょうか。こちら側は日光が当たるからかシェードを閉めている人が多いですが、開けている場合でも窓の外を眺めている人など少ないのだろうと思います。この付近は海の見える区間もあり、かなり車窓は楽しいのですがね。

線路は緑の中に消えていきます。遠くには山の稜線が。この線路をずっと行けば、野を越え山を越え稚内までつながっているのです。鉄道ってすごいですね。

駅舎は小さな道の終点で、本当に静かな雰囲気です。こんな駅で1日中ぼーっと過ごしてみたら、人生観が変わるかもしれません。気づけば雲ひとつなかった空にも、ふわふわの雲が浮いていました。

(2022年9月訪問)

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