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#5 どう見ても廃墟! 安牛駅(幌延町・宗谷線)

無人駅めぐり

旭川駅から北へ向かう普通列車で4時間20分ほど。1日に上下3本ずつしか列車のとまらない駅、安牛(やすうし)駅。

忘れられた存在であることは承知ですが、確かにこれは現役の駅(当時)です。駅舎の塗装はもうボロボロ、いやボロボロという範囲をも超えているように感じます。本当は「安牛駅」と書かれているのですが、全く読むことができません。この姿を見て、現役の鉄道駅だと誰が信じるでしょうか。

駅の周りに人家はありません。また主要道路からも遠く離れています。駅に通じる小さな道は、この駅で行き止まり。車の音も全く聞こえません。無音の空間が広がります。

駅の背後にあるのは鉄道林。暴風雪から駅を守るため植えられた木々です。

原野に鉄道林。その先に何かあるようにも見えません。どこか知らない世界に迷い込んでしまったかのようです。

まだ朝早いので、少し薄暗いですね。とても現役の駅とは思えない風貌ですが、ホームはしっかり除雪されています。最北の秘境にあるこの駅、極寒の中、見ず知らずの誰かがいるかもわからない利用客のために除雪してくれているのですね。

安牛駅の1日平均乗車人員は0.0人(JR北海道調査・2019年)です。この駅を日常利用するシチュエーションが思いつきません。

駅名標は駅の名札。どんなに駅舎がボロボロでも、駅名の判読ができなくても、ここが正式な駅である証拠です。駅名標だけが、ここは駅だぞ!と主張するようです。

駅舎正面の外壁はボロボロで何の文字も判読できませんが、ホーム側の外壁は比較的軽症です。ここは紛れもなくJRの駅。黄緑色のJRマークがしっかり掲げられています。

安牛駅の駅舎はかつての貨車を改造した駅舎。しかしこのタイプの駅舎は、実はとっても丈夫です。ずっと道北の厳しい気候に晒されてきても、倒壊の心配はありません。それを考えれば、こんな駅舎でも頼もしく見えてきます。

いや、駅舎がなかったら、真冬のこの駅での乗降は命懸けの行為になるでしょう。この駅舎の存在価値は限りなく大きいのです。

駅舎の中は意外なほど綺麗です。備品が少ないので殺風景にも感じます。

ホームに戻ります。

除雪によってできた雪山はサラサラなんてしていません。氷のように固まっています。

こんな駅でも、類に漏れずかつては付近に多くの人が住んでおり、この駅の利用者も多くいました。かつては駅員さんもいる有人駅で、旅客のほか荷物も扱い、ホームも2線、列車の行き合い(列車同士がすれ違うこと)が可能な駅でもありました。駅舎も現在のような貨車を再利用した簡易的なものではなく、立派な木造駅舎が建っていました。この雰囲気からは想像もつきませんね。

やがて迎えの列車がやってきて、この駅を後にしますが、万一列車が来なかったら冗談抜きで生死に関わります。こんなところに(ある程度)気楽に降り立てるのも、日本の鉄道の信頼性あってのことです。

安牛駅は、2021年3月のダイヤ改正で、その役目を終えました。現在は訪問できません。

安牛駅・2019年

2019年の安牛駅です。停車中の普通列車の車窓から楽しみます。

夏は虫たちに占拠されてしまうのが安牛駅です。雪がないと、かつての大きな駅舎の基礎部分を見て取れます。

駅舎の基礎は相当広い範囲に。かつての駅舎は本当に大きかったのでしょう。都会の駅だったらこんな凸凹は転んだら危ないので均すのでしょうが、こういった駅では無造作に残されています。昔はどんな駅舎が建っていたのか、想像を膨らませるのも無人駅探訪の楽しみ方の一つです。

安牛駅・2013年 夏

夏の宗谷線の駅は、かなり多くの駅で虫たちの集中攻撃をくらいます。中でも安牛駅は特にひどかったですね。

まだ「駅」の文字は読み取れるでしょうか。いやかろうじて「安牛駅」と読めますね。旧駅舎の土台の関係か、駅舎は気持ち高いところに置かれています。

安牛駅の両隣、雄信内(おのっぷない)駅も南幌延(みなみほろのべ)駅も、利用者は皆無に近い駅です。この周辺は、ただでさえ沿線人口の少ない宗谷線内でも指折りの無人地帯です。国道は天塩川の対岸。国道まで出る場合、近くに橋はないので隣の雄信内駅付近まで歩いてそこから国道を目指すしかありません。そのため最短経路で国道に抜けようとしても、7.5kmほどあるのです。そして国道に抜けたところで、路線バスの類はありません。

こんな駅でも、路線図にはしっかり普通の駅のごとく載っているわけです。良い子は降りてはいけない駅なのですがね。

安牛駅・2013年 春

ホームは非常に立派な作りであることがわかります。仮乗降場に由来する駅ではなく、開業当初から正式な駅だったことを主張するようです。

周囲は何もない。あるわけがない。でもそれが安牛駅の魅力でしょう。

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