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#25 大学と鉱山 山部駅(富良野市・根室線)

無人駅めぐり

※山部駅は、2024年3月31日をもって、廃止となります(根室線・富良野〜新得間路線廃止のため)。ご訪問はお早めに。

富良野駅から2駅、布部駅の隣にあるのが、根室線の山部(やまべ)駅です。乗客数が少ない根室線・富良野〜新得間にありながら、2019年のデータで30人ほどの乗車人員(「乗降人員」に直せば60人)を有していました。この区間の無人駅としては、割と多い数字です。

ここまで乗ってきた列車が走り去っていきます。列車内に冷房がないため、乗客は列車の窓を開け、爽やかな夏風を浴びています。

駅舎は山小屋のようでおしゃれです。山小屋に見えるのは気のせいではなく、山部駅は芦別岳の登山口に近く、実際に登山客の利用が多かった駅であったため、このような駅舎に建て替えられたと言われています。

駅舎手前には「麓郷山部停車場線」の文字が。麓郷・・・ですよ。ピンとこない方はこちらの記事をご参照ください。

駅前広場は綺麗に整備されています。

駅舎の隣には、「富良野タクシー山部営業所」があります。この建物、実は山部駅の旧駅舎の一部であるようです。旧駅舎から現在の駅舎に建て替えられたのは1988年のことですが、その時に旧駅舎が全て解体されることはなく一部残され、タクシー営業所として使われてきたのでしょう。それでも、営業所として残っている旧駅舎も、現在の駅舎も、大切に使われているからかあまり古さを感じさせません。

現在の山部駅舎の中に入ってみます。

とても綺麗な待合室です。座布団は地元の方が用意してくれたものでしょう。

天井を見上げてみましょう。本当に山小屋チックですね。おしゃれであると同時に、温かみや家のような安心感も感じさせます。

「旅路」という書が待合室内に掲げられていました。そうです、旅の途中にあてもなくぶらり降り立ってみたい駅です。実際私はそうしているわけですが。

山部地区が開拓されたきっかけは札幌農学校(現・北海道大学)の農場にあります。農場の働き手(小作人)が全国から集まり、「山部村」となりました。札幌農学校の農場(この付近は第8農場)によって栄えたために、「大学村」とも呼ばれていたようです。隣の布部駅と同じように、東京帝国大学(現・東京大学)の演習林もあり、木材の運搬で栄えた点も、「大学村」という呼称に寄与したのかもしれません。

山部村は1965年の町制施行で山部町となり、その頃には6800人もの人口を有していたようです。その後すぐ、1966年には隣町である富良野町と合併し、現在の富良野市となりました。

山部は先述のように農業をきっかけに栄えた町ですが、農業だけの町ではありませんでした。のちに野沢鉱山というアスベスト(石綿)鉱山が、東大の演習林の近くで見つかり、日本国内のアスベスト鉱山で最大規模を誇っていました。野沢鉱山が発見されたのは1939年、操業開始は1942年のこと。のちに第二次世界大戦に繋がることになった日中戦争の始まりが1937年、真珠湾攻撃が1941年ですから、野沢鉱山のアスベストはあらゆる資源が逼迫していた戦時中に大いに活用されたとのことです。野沢鉱山のアスベストは主に繊維製品に利用されていたようです。

野沢鉱山が最大規模ではありますが、近隣には山部石綿鉱山、布部石綿鉱山もあり、山部はアスベスト鉱山の「城下町」のようになっていました。

野沢鉱山は1969年に閉山しましたが、小規模なアスベスト回収は2002年ごろまで実施されていたようです。

そんな栄えた歴史を、長いホームが静かに語っているようです。それでも、この駅の場合はまだまだ駅周辺が市街地になっており、人口は大きく減っているのですが、寂れた感じはありません。

石造りの立派なホームです。

今ここに来る列車はほとんどが1両であり、長いホームも持て余し気味です。長らく使われていない場所は雑草に覆われていました。

末端部には、ホームが板張りとなっているところもありました。ホームの木はそうとう傷んでいるようです。十分気をつけて歩いた方が良さそうですね。

一方で、上屋のある場所もあります。このようなローカル駅で上屋があるのは珍しいです。

ホームからは山々を望めます。

駅前に出てみましょう。

駅前には旅館がありました。全8室の小さな旅館。まさに旅の途中に泊まってみたいですね。

年季の入った金物店もありました。かなり歴史がありそうです。

そしてみんな大好きセイコーマート(北海道で圧倒的シェアを誇るコンビニ)もありました。HOT CHEFもある豪華仕様です。セイコーマートはもはや道内のインフラ。あって欲しいところにしっかりあってくれます。

一見小さな駅に見える山部駅、確かに実際にも小さな駅かもしれませんが、かつて山部町として独立していただけのことはあり、駅周辺はしっかり栄えています。駅前の味わいのある旅館に泊まり、おかみさんに山部のおすすめスポットを聞いて、ぶらり街歩きをするなんて楽しいのではないでしょうか。

(以上2019年8月訪問時)

山部駅・2019年 春

まだ雪の残る山部駅です。

山部駅・2013年 春

乗車中の列車からは、地元のおじさんの下車がありました。

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