PR

#6 湿原の前に佇む駅 糸魚沢駅(厚岸町・花咲線)

無人駅めぐり

道東の要衝・釧路駅から日本本土最東端のまち・根室方面への列車に乗って1時間程度。別寒辺牛(べかんべうし)湿原が車窓に広がっている最中に、列車は駅にとまります。糸魚沢(いといざわ)駅です。

アイヌ語らしくない「糸魚沢」と言う名前はアイヌ語の意訳からきており、北海道のアイヌ語らしくない地名にはよくあるパターンです。元々のアイヌ語の地名に対し、そのアイヌ語の発音に合う漢字をあてて日本語の地名にしたのではなく、そのアイヌ語の意味に合致する漢字を選び、日本語の地名にしたというタイプです。

その元となったアイヌ語には諸説ありますが、チライカリペッ(ciray-kari-pet):「(魚の)イトウが通う川」やチライカペッ(ciray-kar-pet):「イトウを取る川」などの説があるようです。いずれにしろ、「イトウ」の和名が「糸魚」なので、「糸魚沢」はざっくりイトウの沢(川)、という意味であることは間違いないでしょう。イトウは生息数が少なく幻の魚と言われており、日本では基本的に北海道でしか見られない魚です。阿寒湖とかに行くとイトウを食べることができますよ。

さて、駅名の話が長くなりました。駅の風景に移りましょう。

駅の裏側はすぐ湿原です。同じように湿原のそばにある釧路湿原駅は有名ですが、この駅はほとんど知られていないでしょう。駅前には小集落があるものの、ひとけは感じません。

普通列車は最果ての街・根室に向けて走り去っていきました。

駅名標はすっかり色褪せ、フレームも錆びきっているようです。ここまで色が抜けた駅名標も、なかなか珍しいものです。この駅にはホームは1つしかありませんが、実は駅名標は2つ設置されています。そしてもう一つの駅名標も・・・

仲良く同じ色合いになってしまっています。いつからここに立っているのでしょうか。

駅舎はログハウス調の新しいものです。2015年までは古くて立派な木造駅舎が建っていましたが、老朽化のため解体、現在の駅舎に建て替えられました。

駅舎のホーム側は少し味気ない「JR糸魚沢」の表示。

一方、駅正面の駅名板は木製で、温もりを感じます。

訪問したのは9月の終わり頃ですが、もう風は冷たく、寒さすら感じました。

新しい駅舎なだけあって、駅舎内は非常に綺麗です。建物自体がしっかりしているので、駅舎の中はほんのり暖かく感じます。もちろん暖房の類はありませんが、きっと真冬でも外より幾分暖かいでしょう。

また待合室内の電気はとても明るく、これなら真っ暗な糸魚沢の夜でも安心して列車を待てそうです。

駅を訪れた旅人が自由に思い出を書き込める「駅ノート」も置いてあったので、一筆書いていくことにしました。

この駅に停車する列車は、1日に根室方面4本、釧路方面5本です。列車本数が多いわけではありませんが、隣の茶内駅(ちゃない)で列車交換(列車同士のすれ違い)が行われる関係で、短時間の訪問でよければかなり訪れやすい駅だと思います。釧路方面から来てここ糸魚沢駅に降り立つと、20〜30分ほどで隣の茶内駅ですれ違った根室方面からの列車がやってくるので、それに乗り込めば簡単に釧路に帰ることができます。釧路方面からの列車4本のうち4本全てでこの釧路への折り返し芸が可能であり、糸魚沢駅訪問者のためにお膳立てしてくれているようなダイヤです。

日が暮れていきます。空のグラデーションが美しく、駅舎の明かりには温もりを感じます。湿原の先に続いていく線路も、旅情をかきたてます。

暗くなってしまえばもう周辺散策はできませんが、この風景だけで十分でしょう。降りた価値があるというものです。

糸魚沢駅は2022年3月のダイヤ改正で廃止となりました。

(以上2021年9月訪問時)

糸魚沢駅・2014年

2014年、まだ木造駅舎が残っていた頃の糸魚沢駅です。

ところどころ補修されながら大切に使われていた糸魚沢駅の駅舎。見事な佇まいです。

この「JR糸魚沢」の看板、どこかで見覚えがありますね。はい、この駅名板が、新駅舎の駅名板として再利用されていたようです。

ホーム側に移動します。

ホーム側も味わい深い雰囲気です。駅舎にはかなり年季が入っていることがわかります。

そして気になるのがこれです。これも新駅舎の駅名板として再利用されていました。旧駅舎の駅正面の駅名板は新駅舎のホーム側に、旧駅舎のホーム側の駅名板は新駅舎の正面側に移されています。駅舎新築に伴い、攻守交代をしたようですね。

かつての駅舎は、片流れの屋根が特徴的でした。

2014年当時は、かつて線路が分岐していた跡がはっきり残っていました。昔はこの駅はホームがもう一つあり、列車の行き合い(すれ違い)が可能な構造だったのでしょう。

タイトルとURLをコピーしました