※布部駅は、2024年3月31日をもって、廃止となります(根室線・富良野〜新得間路線廃止のため)。ご訪問はお早めに。
富良野駅から新得方面へ一駅のところに、布部(ぬのべ)駅はあります。
山間のホーム。小さいながらも綺麗な街並み。そしてかつてたくさん線路が敷かれていた跡。降り立った布部駅は、北海道らしさ満載です。
この布部駅、フジテレビ系の名作ドラマ、「北の国から」のロケに使われた駅です。「北の国から」の第1話で、主人公の黒板五郎、その息子の純、そして娘の蛍の3人は、東京からはるばる列車に乗ってこの駅に降り立ち、北海道富良野の大自然の中での生活が始まるのです。
ドラマの舞台、3人が暮らす家があるのは富良野の麓郷(ろくごう)という地区です。そして実際にドラマの撮影が行われたのもドラマでの設定と同じ麓郷地区です。ドラマ上の設定も、ロケ地も麓郷であるわけです。
実際ロケ地の「麓郷の森」では、ドラマで使われた丸太小屋などを見ることができます。
そしてその麓郷地区の最寄駅が、実際にもここ布部駅であるわけです。ドラマの中でも、何か他の駅名の駅として登場しているのではなく、「布部駅」として登場しています。ここまでロケ地が現実の地域に即したドラマというのも珍しいのではないでしょうか。
綺麗な緑色の屋根が眩しい布部駅の駅舎。この駅舎もドラマに登場しています。当然のようにロケセットの駅舎ではなく、実際の布部駅舎をドラマの撮影に使っていました。そして撮影当時と同じ駅舎が今でも現役です。
ホームの途中には大きな木があり、ホーム末端は使われていないようです。
ホームと駅舎の間には線路が2線敷かれていますが、この2つの線路は今は使われていません。その証拠に、線路の先が雑草で覆われています。
通常線路内に立ち入ることはできませんが、この線路はもう列車のこない、言うならば「線路跡」。もう線路ではないけれど、レールが「撤去されずに放置されている」といった感じなので、なんだか公園のような雰囲気も漂います。
この周辺の小学生だったら、ここを放課後の遊び場にしたくなりそうです。まあ実際には布部地区の小学生にとっては、こんな気持ちのいい風景もただの日常でなんとも思わないのでしょう。遠くに見える山の稜線も綺麗です。
ここだけ見ると、立派な構内踏切に見えます。ホーム手前の2つの線路にもまだ列車が来るんじゃないか、という錯覚を覚えますね。
なんとも長閑なホーム。時間を忘れられそうです。
美しい緑の駅舎に入ってみましょう。
ドラマ「北の国から」撮影時の布部駅駅舎の写真がありました。現在と同じ駅舎であることがわかりますね。少し改装はされています。
駅舎の中は室内を飛び交う虫の羽音が聞こえるだけの空間。
この布部駅のある根室線(滝川〜新得間)は、かつて札幌から帯広・釧路方面へ向かうメインルートでした。そのため数多くの急行・特急列車が通っていましたが、石勝(せきしょう)線の開通後は石勝線にその座を譲り、ここは急行・特急列車の走らないローカル線に。全盛期に比べ、列車本数も随分減ったようです。
かつて、駅員さんがいた頃の窓口の跡もしっかり残っています。
「北の国から」では五郎・純・蛍の3人もこの駅舎から出てきて、麓郷に向かっていたのです。
実はこの駅と麓郷はただ近いだけではありません。この布部駅からは、かつて麓郷地区まで森林鉄道が敷かれていたという縁があります。
麓郷周辺には東京帝国大学(現・東京大学)の演習林があり、この布部駅も東京帝国大学の請願によって開設された駅です。そして森林鉄道は、東大の演習林で伐採した木々を麓郷から布部駅まで運び出すために敷設されたものです。ここ布部駅まで木材を運べば、あとは線路で全国につながっていますからね。
実際、布部は東大の演習林からの木材を運ぶ、という仕事によって、人が集まってきた地区と言われています。運送屋はもちろん、木材の加工業でも栄え、次第に人が増えていくにしたがって商店や宿もできていったようです。
現在でも、駅前通りは小さな町が形成されています。人通りはありませんが、比較的多くの方が暮らしていることは容易にわかります。
今でも木材輸送で栄えた名残は残っているのでしょうか。地元のおばちゃんが、花壇に水をやる光景が見られました。
こんな静かなまち、いいですよね。
立派な駅舎と立派な松の木。松の木にある看板には「北の国から此処に始る」と書かれています。これは「北の国から」の原作者、倉本聰の直筆のものです。この駅の雰囲気といい、まちの雰囲気といい、「北の国から此処に始る」が本当にふさわしい駅なのではないでしょうか。
(以上2019年8月訪問時)
布部駅・2019年 春
早春、まだ雪に埋もれる布部駅です。
小さな山間の駅も、住民の方にとっては大切な駅です。