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[4時間半の路線バス]天北宗谷岬線を全線走破する!

鉄道・航空・バス

北海道北部、旭川と稚内のほぼ中間に位置するJR宗谷線・音威子府(おといねっぷ)駅。宗谷線はここから西に向かい、中川町(なかがわちょう)・幌延町(ほろのべちょう)を通って稚内に向かいます。しかしかつては、音威子府から北へ、オホーツク海沿いを通って稚内に向かう鉄道路線がありました。それがかつての「天北線(てんぽくせん)」です。天北線が廃線になった後、この区間はバスに引き継がれ、宗谷バス「天北線」へ。のちに宗谷岬経由にルートが改められました。このバス路線が「天北宗谷岬線(てんぽくそうやみさきせん)」です。

天北宗谷岬線のルートは以下の通りです。

引用元:Google社 Google マップ

天北宗谷岬線を全線走破する便は1日1本のみ。所要時間は4時間半。路線バスとは思えない長時間の旅を満喫していきます。

音威子府を出発

天北宗谷岬線の始発、音威子府村にある音威子府駅。音威子府村は北海道で一番人口の少ない村であり、この駅の周辺人口も非常に少ないです。しかしそれにしては駅員さんがいる有人駅で、この駅発着の列車すら持っている、宗谷線内では非常に大事な駅です。音威子府がこんなに存在感を発揮しているのは、かつてここから天北線が分岐し、鉄道の街として栄えた名残でしょう。音威子府村に住む人の3割が鉄道(国鉄)関連の人であった時代もあったそうです。

音威子府駅の駅舎のすぐ横に、バスが1台止まっています。このバスが天北宗谷岬線・稚内行きとなります。

天北宗谷岬線稚内行きは1日1便のみ。もう1便は途中の鬼志別(おにしべつ)止まりです。宗谷岬を経由するようにルートが変更されてから、路線名は「天北線」から「天北宗谷岬線」に改められたのですが、表示は「天北線」のままになってますね。誰も気にしないのでしょう。

ついに稚内行きのバスが駅舎の前に来ました。早速乗り込みます。お客さんは物好きと思われる方はいましたが、地元の方の利用はなさそうですね。出発は11時20分です。もう少し遅ければ、駅から歩いてすぐのところにある道の駅で食事をとってから乗れるのに、そこは残念です。道の駅の食堂は11時からの営業。頑張れば行けるかもしれませんが。

いよいよ音威子府駅を出発し、4時間半の旅が始まります。道の駅の手前で道路は左方向と直進方向に分岐し、ここが重要ポイントになります。左方向は国道40号で、JR宗谷線と同じように日本海側を通って稚内まで続いています。一方直進方向は国道275号で浜頓別(はまとんべつ)方面です。このバスはもちろん直進していきます。浜頓別まで国道275号、浜頓別からは主に国道238号を走り、稚内を目指すのです。

山々を越える

あっという間に大自然、山の中を走ります。音威子府は山に囲まれた村です。他に走っている車もない、しかし立派な道路を快調に登っていきます。山を越えて目指すはオホーツク海です。

かつての天北線の駅名がついた停留所がいくつもあります。しかしどこも乗降はありません。それどころか沿線に人家が見えません。この辺りの適当なバス停で降ろされたら、それこそ日曜劇場「VIVANT」の砂漠の真ん中で降ろされた乃木状態かもしれません。いや、夏だからいいですが、冬は本当に生死に関わるレベルでしょう。

バスは「ピンネシリ温泉」を通過します。写真に写っている建物は道の駅「ピンネシリ」です。この向かいにピンネシリ温泉があります。もちろん小さな温泉で、私も入ったことはありませんが、いつか来てみたいですね。

12時13分、定刻通りに中頓別(なかとんべつ)ターミナルに到着。ここで10分間の休憩です。かつての中頓別駅をバスターミナルにしたもので、横にはかつての天北線の車両がボロボロの状態で展示されています。

中頓別は音威子府から出て、初めての町らしい町です。人通りはありませんが、信号も飲食店もあります。大自然の中を走って、突如ボコンと町が現れる、これが北海道だなとつくづく感じます。

ターミナルの中はトイレとベンチしかありませんがね。

中頓別ターミナルでも乗客の乗り降りはありませんでした。中頓別ターミナルを出て、北海道らしい牧場の風景が車窓に広がります。

浜頓別からは国道238号へ

バスは国道275号線をひたすら走っていきます。どこのバス停だったか忘れましたが、中頓別ターミナルを出たあと、初めて地元の方がひとり乗ってこられました。

中頓別からわずか26分。12時49分、オホーツク海沿岸の浜頓別ターミナルに到着です。先程乗ってきた方はここで降りたようです。中頓別ターミナルからそんなに時間も経っていませんが、ここでも10分間の休憩があります。ここは道の駅・北オホーツクはまとんべつがあり、もう少し休憩時間があったらゆっくり見て行きたいところですが、10分ではトイレに行くぐらいしかできません。

このバスが到着する前には、すでに反対方向の天北宗谷岬線、稚内発音威子府行きが到着していました。こちらの音威子府行きも1日1便しかありません。1便だけの長距離便同士が、2台並びます。

前の車が乗車中の稚内行き、後ろが音威子府行きです。音威子府行きの方が先に発車していきました。

浜頓別はさすがに立派な街です。ここで降りて街を見てみたいくらいですが、天北宗谷岬線の乗り通しが目的なので致し方ありません。今度また別の機会に来てみたいですね。浜頓別を出るとバスは国道238号に入り、オホーツク海の近くを北上しますが、まだオホーツク海は見えません。いや、頑張れば遠くに見えるかな。

バスは「飛行場前」停留所を通過します。いや、周囲に飛行場なんてありません。人家すらありません。しかし「飛行場前」です。かつての天北線「飛行場前駅」がこの辺りにあったことに由来するバス停名です。

そして、天北線「飛行場前駅」の時代にも近くに飛行場はありませんでした。飛行場がないのに「飛行場前駅」ということで、物好きの中では有名だったようです。

ではここに飛行場があったことがないのか、というと、もっと昔には飛行場があったのです。この周辺には、大日本帝国陸軍の浅茅野第一飛行場がありました。浅茅野第一飛行場は、太平洋戦争中に建設され、1944年に完成しましたが、1945年の終戦までほとんど使われることはありませんでした。終戦後に施設は撤去され、再び原野となったようです。そして、飛行場前駅が開業したのは施設撤去後の1955年(開業当時は仮乗降場)。飛行場が撤去された後に「飛行場前」という名前で開業したのです。そして鉄道廃止後も、バス停の名前にそれが引き継がれているわけです。原野のなかで「次は飛行場前」というアナウンスが流れるので、知らない人は驚くでしょうね。

バスは少し小さな道に入り、海から離れて猿払(さるふつ)へ向かいます。空もだんだん曇っていき、ついに雨が降り出しました。

オホーツク海

引き続き誰も乗降がないまま、海沿いの国道238号へ戻ると、ついにオホーツク海が広がります。

途中、「道の駅さるふつ公園」を通りますが、そのあたりがかつて浅茅野第二飛行場があったところです。第一飛行場に比べると小規模でしたが、こちらも同じようにほとんど使われないまま終戦を迎えました。

バスが再び内陸に入ると、猿払村の中心、鬼志別(おにしべつ)ターミナルになります。

ここで14分の休憩です。発車時刻は14時10分。鬼志別ターミナル内には、天北線資料室があり、かつて使われていた駅名板などが展示されています。

「関係者以外立ち入り禁止」はよく見ますが、「部外者の出入り禁止」はストレートですね。まあ部外者に間違いないですけれど。

ここで運転手さんよりひとこと。宗谷岬から非常に多くの方が乗車するとのことです。これまではガラガラなことをいいことに隣の席に荷物を置いていましたが、宗谷岬に着いたらどかしてくださいとのことでした。運転手さんはどこかと無線で連絡をとっており、宗谷岬から相当な混雑になるという情報が入っていたようでした。

鬼志別を出発、「鈴木宅前」なんていう面白いバス停を通ります。「うちに来るには鈴木宅前で降りればいいから」なんて言えたらかっこいいですね。「天野宅前」もありました。

バスは再び海岸線へ戻り、オホーツク海を眺めながら北へ走ります。

雲もなくなり、気持ちのいい車窓が続きます。バスは宗谷岬の手前で一旦止まり、一部の座席を畳んで混雑に備えます。

宗谷岬から大量の観光客が乗車

宗谷岬に到着です。案の定大量の観光客が・・・と思っていたら想像以上でした。乗り切れるのか?というレベルで長蛇の列をなしていました。

なんとか全員乗り込めましたが、車内は身動きできないほどの混雑となりました。今までの雰囲気からは一転、このバスの車内だけは都会の通勤電車のようです。「大人の休日倶楽部パス」の期間中だったようですね。稚内ターミナルまではまだ1時間あります。

遠くに利尻島が見えます。利尻島の手前に見えるのが稚内半島でしょう。この写真では見えないですが、礼文島がその奥にあります。もっとも、この写真でどれが利尻島かすぐにわかる方にとっては、こんな説明は不要かもしれません。

バスが稚内に近づくと降りる人も多くなりますが、満員のバスからは正規の降り方はできません。本来乗車用の後部ドアから降り、その後前のドアまで回って運賃を払う、というスタイルが定着していました。

稚内駅前ターミナルに到着

音威子府から4時間39分、定刻より6分遅れた15時59分に稚内駅前ターミナルに到着です。

ついに到着した稚内、音威子府を出た時と同じく、雲一つない青空でした。宗谷岬からの満員区間は、座っていたとはいえ疲れましたね。時刻は16時を回りました。

実はこのあとは稚内で宿泊せず、17時44分発の特急「宗谷」で札幌まで行く予定です。札幌到着は22時57分。4時間半の路線バスの余韻に浸る間もなく、またもや5時間以上の長旅です。明日北海道を出て家に帰らないといけないので仕方ないですね。せめて稚内で買い物くらいはしていきましょう。

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