銚子口という名前の由来は近くにある沼、大沼からです。大沼は北東に行くにつれ細くなっていき、銚子の口のようになっていることから、大沼の北東に位置するこの付近が銚子口と呼ばれるようになったのです。銚子口駅の地名は「七飯町字東大沼」であり、大沼の北東端には「銚子口放水門」があるなど、大沼と縁の深い場所だということがわかります。
大沼とは近くても、大沼公園として観光地として知られる大沼国定公園は大沼の南西で、ここ銚子口からはかなり離れています。大沼に由来する地名であり、大沼とも近い場所ですが、ここ銚子口に大沼公園のような活気は全くなく、むしろ非常に静かです。
そんな場所にあった小さな駅、銚子口駅。目の前に駒ヶ岳を望むことができ、景色の良い駅でしたが、利用者はほとんどなかったようです。
ホームは2つ。除雪はしっかりされていました。
白い雪に、青い空とふわふわの白い雲。
隣駅の駅名が張り替えられた駅名標を見ると、以前隣にあった駅が廃止されたのだろうと思ってしまいますが、ここは例外。隣の流山温泉駅は、2002年に新設された駅なのです。流山温泉はJR北海道直営のリゾート施設としてオープンし、その最寄駅としてつくられたのが流山温泉駅。しかし流山温泉も、経営難から2015年に営業を終了。その後はほとんど利用者がいない駅になっていたようです。そして2022年、流山温泉駅は開業からたった20年で廃止されます。その際に、両隣の駅、ここ銚子口駅と池田園(いけだえん)駅も同時に廃止となったのです。
1945年から営業していたこの駅も、もうすぐ駅としての役目を終えます。訪れたのは駅廃止の10日ほど前になります。駒ヶ岳が美しそうで降りてみたかったんですもん。
駅舎の横には小さな小屋が。何も書いていませんが、おそらくトイレでしょう。
名所案内には「駒ヶ岳 活火山」の文字が。やっぱりこの付近、駒ヶ岳は見逃せないですよね。「登山口」まではたったの3km。かなり近いです。しかし左に書かれている水色の絵は何なのでしょうか。個人的にはなんだかバンクシー感があるなと思ってしまいます。
また、下に書かれている「東大沼温泉」ですが、江戸時代末期・安政時代から湯治に使われていた名湯であったようです。東大沼温泉には「旅館 留の湯」のただ1軒のみが存在していましたが、2020年に閉業してしまいました。非常に長い歴史と優れた泉質を併せ持つ温泉が、その歴史に静かに終止符を打ってしまったことは非常に残念です。地元の方やコアな観光客の方にも愛されていたようですが、やはり新型コロナウイルスのパンデミックで大打撃を受けてしまったのでしょう。
ちなみに言っておきますが、「閉業してもう存在しない温泉がなんで堂々と書かれてるの?」なんて思ってはいけません。こんな案内板、信じる方が悪いのです。何十年前の情報が書かれていてもおかしくありませんからね。駒ヶ岳登山口の案内だって、実際は火山活動の影響により、たとえ夏であっても山頂の火口部から半径4kmは立ち入りできず、この看板で案内されている登山道は通年閉鎖されています(2024年現在)。山頂まで9km、3時間30分・・・など法律を破って警察に捕まること、または遭難することを勧めてきているのです。
しかも山頂付近に立ち入りできないのは1998年頃くらいからずっとですからね。本当にいつの情報なんだよ、と言いたくなります。こんな名所案内を馬鹿正直に信じたら、とんでもないことになりかねません。
あと「キャンプ適地 西北700メートル」は、そもそも西北に向かう道がない気がするのですが気のせいでしょうか。「大沼湖畔」ともありますが、この駅から大沼は南西方向です。
「JRの駅の掲示板なんだから」が通用しない世界が、ここにはあります。安易に信じると「文字通り」命取りになります。
それでも駅の向こうには、旅行者を惹きつける美しい駒ヶ岳の姿が。
駅舎は比較的大きいです。そしてホームも駅舎に近い部分は綺麗に除雪されていました。滞在中にも除雪作業員の方がやってきて、雪かきをしながら、もう銚子口に除雪に来ることもなくなるんだな、良い駅だった、としみじみと話していたのが印象的でした。
除雪作業員の方の他にも、駅の廃止を惜しんで訪れた人がいました。何か話をしましたが、何を話したのかは覚えていません。
今ここにとまる列車はほとんどが1両。それでも昔の名残で、長く立派なホームが残っています。
太陽も傾き、影も長くなってきました。今日1日も終わりが近づきます。そして銚子口駅の最後の日も、また1日近づいてきます。
駅前の道です。人通りはもちろんのこと、除雪の方をはじめ、駅を目的に訪れた方を除くと車の通りもありませんでしたが、民家が数軒あるように見えます。主要道路からはかなり離れています。
駅前に出て、再び駒ヶ岳を望みます。相変わらず美しい姿です。どの方向から見るかによって大きく姿を変える山でもあります。手前に駅名標が立っているのが見えると思いますが、そこが銚子口駅のホームです。本当に近いです。
西日が眩しい銚子口駅。
日が傾くにつれ、少しずつ気温も下がってきました。道南、そしてもう3月とはいえ、まだまだ寒い北海道です。今は日が照っているこの場所も、ものの10日ほど前には大寒波に覆われていました。
少しずつ沈んでいく太陽を眺めながら、列車を待つ時間。こういった時間もとても贅沢です。
(2022年3月訪問時)