夕張の滝ノ上公園に「千鳥が滝」という滝があります。すごく大きな滝というわけではないものの、実は歴史的にアイヌの信仰を集めた滝であり、その神秘的な姿ゆえにファンも多い滝です。いわば「知る人ぞ知る名爆」となっています。
「最寄駅」から滝まで歩ける常識破りの滝
この滝、驚くべきことに最寄駅から歩けます。全国的に見てもこんな滝は珍しいです。
というわけで、最寄駅である石勝線の滝ノ上(たきのうえ)駅に降り立ちます。まあ最寄駅と声高に言っても、この駅、列車は1日上下3本しか来ません。北海道を旅しているとこんな駅、決して珍しくはないんですけどね。
(※滝ノ上駅は現在廃駅となってしまいました。)
駅舎の前には花が植えられ、誰も来ない駅にも彩りを添えます。
さて、「滝ノ上」という駅名ですが、本当に「滝の上にあること」からきている名前です。ここから歩いてすぐの場所、「滝ノ上公園」の中に、「千鳥が滝」という滝があります。駅は確かに滝ノ上駅にあるので、「滝ノ上駅」は納得ですが、滝ノ上公園はどうなの??滝ノ上公園の中に滝があるんでしょ?滝の「上」ではなくない??なんて余計なことを考えるのはやめましょう。それだけ「滝ノ上」という地名がこの地域に定着している証拠であり、それはつまり長きにわたり、「千鳥が滝」という滝がこの地域のシンボルとして存在している、ということを示すものです。
確かに知名度は決して高くない滝ですが、簡単に訪問できるだけでなく、歴史的にも、アイヌ民族からの信仰を集めていた滝であり、また地形的にもかなり面白い滝となっています。あまり知られていないだけで、歴史的にも地理的にも大きな価値のある名爆です。
滝ノ上駅から国道274号を歩くと、「千鳥ヶ滝」200m先左の看板が見えます。
滝ノ上公園と千鳥が滝
千鳥ヶ滝がある滝の上公園に到着しました。左手には農作物の直売所が。歩いている人は少ないですが、車はそこそこ停まっているようです。
公園内に入り、すぐに見えてくるのがレンガの重厚な建物です。これが滝の上発電所です。1925年に北海道炭礦汽船株式会社が、自社用の発電所として設置しました。かつては炭鉱で栄えていた夕張、その名残を今に伝えるものの一つとなっています。
と書くとかつて稼働していた発電所、のように思われるかもしれませんが、驚くことに現役の発電所です。いや、正確に言えば写真のレンガの建物は使用されていません。現在は別の新しい建物を使っています。
さらに歩くと見えてくるのが千鳥橋です。赤くて目立つ橋なので、見逃す心配はなさそうです。千鳥ヶ滝はこの橋の上から見ることができます。
大きくて立派な吊り橋です。
橋の上から眺める千鳥ヶ滝です。しかし独特な地形です。私は地質マニアではないので詳しいことは分かりませんが、地質学的にかなり珍しい地形であるそうです。確かに地質素人の私でも、何だかすごい地形だ、ということぐらいは感じ取れます。神秘的な雰囲気を感じますね。
地層をよくみると、斜めに層が入っているのも見て取れます。私も専門的なところはわからないのですが、ざっくり言うと台地と台地が衝突したことによってできた地形らしく、本来地面と平行であるべき地層がこんなとんでもない向きになっているのでしょう。
また地形的に、滝が土を(かなり大きく)削ってきたんだな、ということも感じ取れます。水の流れている場所だけ奥まっていますものね。他のどの滝もそうではありますが、長年川の水が土を削って削って、滝の位置も後ろの方に動いていることが素人にもわかる地形とも言えそうです。
しかし見れば見るほど面白い地形ですね。ぜひ、皆さんも訪問された際は、ただ滝の写真を撮って帰るだけでなく、地層に目を向けてみてください。
この渓谷に神秘的な雰囲気を感じるのは私だけではなく、先述したようにアイヌの信仰の対象でもありました。この場所はアイヌ語でポンソーカムイコタンと呼ばれています。アイヌ語に慣れている方ならサクッと意味がわかるのではないでしょうか。
「ポン」=小さい 「ソー」=滝 「カムイ」=神 「コタン』=集落です。いずれも基礎単語ですのでアイヌ語に詳しくなりたい方は覚えておきましょう。「カムイコタン」で1語という見方もできますね。神々の住む場所の意です。
要するに、ポンソーカムイコタンは、「小さな滝のある神々の住む場所」という意味です。この付近にはアイヌも伝統的に多く住んでおり、この独特で神秘的な渓谷は神聖な場所とされていました。アイヌの信仰の対象となる場所は、自然の美しさや厳しさを感じる場所が多い印象を受けます。
この滝の見頃は、雪解けの時期と紅葉の季節でしょう。前者では水量が非常に多くなり、いま岩が露出している部分も滝になり、雄大な姿が見られます。後者では滝とセットで綺麗な紅葉を見ることができます。
千鳥橋からはもう一つ、名無しの滝も見えたりします。こんなのもいいですね。
「滝の吊り橋」から滝は見えない!
千鳥橋の奥には、「滝の吊橋」という橋もあります。一見こちらの方が滝が見えそうな名前ですが、滝が見えるのは千鳥橋の方なので、お間違えのないようお気をつけください。駅からも駐車場からも近いのは「千鳥橋」の方なので、滝の吊り橋を目指して歩くと、(滝だけが目的の場合)無駄に歩いてしまうことになります。
滝は見えませんが、滝の吊橋から眺める渓谷も非常に美しいものです。間違えないよう気をつけてください!とは言いつつも、よほど時間のない限りはどちらの橋も渡ってみることをお勧めします。
そして千鳥橋以外に千鳥が滝を望める場所はあるの?と思われるでしょうが、基本的にありません。千鳥橋の左岸(川の水の流れの方向を向いて左側の岸)には川に近づける歩道のようなものがありますが、そこからも滝は見えません。先ほどの滝の写真を見ていただければ納得いただけると思いますが、滝の左右は岩に囲まれており、千鳥橋からしか滝の姿を拝むことはできないのです。
これが千鳥橋左岸の遊歩道。左上の赤い橋が千鳥橋です。川に近づけるので滝が見えそうな気がしてしまいますが、実際にはここに来ても見られません。滝は橋の上から。
でもそんなところも、神秘的な雰囲気を感じさせる理由の一つなのではないでしょうか。古くからの信仰の対象には、変に近づいたり別の角度から攻めようとはせず、正面から静かに拝みましょう。