北海道出身の彫刻家・砂澤ビッキ(Sunazawa Bikky, 1931-1989)。北海道の大自然を感じさせ、原始的ながらモダン、という独特の作風で知られています。
砂澤ビッキは、旭川の近文(ちかぶみ)で生まれ、北海道で農業に携わった後21歳で鎌倉に移住、彫刻を始めて、27歳のときにモダンアート協会展新人賞を受賞。28歳で北海道に戻り、その後第1回集団現代彫刻展への出品(29歳)や旭川市の「アイヌ民芸センター」の設計(30歳)などを行いました。36歳の時には札幌市白石区にアトリエを構えましたが、47歳になると音威子府(おといねっぷ)村筬島(おさしま)の廃校になった小学校をアトリエにし、57歳に骨髄がんで死去するまで、そこで数々の作品を生み出しました。
北海道で一番人口が少ない村。そして豪雪地帯。大自然の真っ只中にある、廃校になった小学校をアトリエに選んだことに、砂澤ビッキの人柄が現れていると言えるでしょう。
そのビッキがアトリエを構えていた小学校、旧筬島小学校の建物は、現在は「砂澤ビッキ記念館」としてリニューアルされ、ビッキの数々の作品が展示されています。かつての筬島小学校は、アトリエとして第2の人生を歩んだのち、さらに記念館として第3の人生を歩んでいるわけです。
小学校の面影を残す砂澤ビッキ記念館
砂澤ビッキ記念館は、赤い屋根の建物。目の前に植えられている大きな木が目を引きます。かつて筬島小学校として使われていた頃からあるのでしょうか。
外観はかつての筬島小学校とほとんど変わりません。この佇まいがいいですね。
エントランスはかつての筬島小学校の時代とは異なり、建物の端にあります。建物の真ん中付近に玄関のような張り出しがあり、小学校だった頃はそこが入口だったのでしょうが、今では板で塞がれています。
かつての佇まいを残す建物の外観とは裏腹に、エントランスは綺麗に整備されています。ここだけが現代のようです。
入館料は300円(中学生以下と音威子府村民は無料)です。また施設は冬期休業です。訪問される際は、営業期間・営業時間に十分注意してください。周囲は本当に何もない大自然なので、冬季に間違えて訪問すると洒落になりません。
また撮影の可否を問うたところ、全て撮影可とのことでしたので、遠慮なく写真を撮らせていただきました。
入ってすぐの場所は、旧筬島小学校の廊下の部分です。ここは「風の回廊」と呼ばれています。風の音を聞きながら作品を作っていたのでしょう。ビッキによる絵や彫刻が飾られています。
廊下を抜けると、かつての職員室へ。そこにはかつて音威子府駅前に建てられていた、「オトイネップタワー」が分割され、展示されています。もちろんビッキの作品です。分割された姿とはいえ、その迫力は健在です。
そのほかにも、「ビッキからのメッセージ」という小部屋や、「樹気との対話」という暗室があったりします。ビッキの魂を感じることができる空間です。この辺りはぜひ記念館に行って体感してください。
教室の部分は、作品のほかビッキの使っていた工具が並べられ、当時のビッキのアトリエが再現されています。ビッキは夜遅くまで制作に打ち込んでおり、代表作「午前3時の玩具」もここに展示されています。
「午前3時の玩具」
このアトリエの近くには宗谷線が通っており、かつて夜行の急行「宗谷」が稚内に向かって、この辺りを走り去っていくのが午前3時ごろでした。この列車の汽笛を聞きながら作品制作に励んでいたそうです。
部屋もしっかりと午前3時が再現されているようです。
ビッキの詩も展示されています。彫刻に、絵に、詩まで。読んでみれば、ビッキがこの北海道の中でも過酷な気候であるここにアトリエを構えたことにも納得させられます。
見学の所要時間
展示をひととおり見るのにかかる時間は、15分〜20分程度だと思います。大半の人はそれくらいで帰っている印象でした。一方で、建物に入りきらなかった作品が外の倉庫に展示してあり、記念館の方のご厚意でこちらも見せてもらえることがあります。ただし必ず見れるとは思わない方がいいと思います。
小さな記念館ですが、その規模に反してかなり面白いと思います。きっと砂澤ビッキの世界観に引き込まれることでしょう。
アクセスと注意
この記念館、大自然の中ではありますがJR筬島駅がすぐ近くにあります。ただし筬島駅の列車本数は1日上下3本ずつで、利用するには事前の計画が必須です。また、音威子府村の村営バスも1日5便来ており、筬島駅の列車と村営バスを合わせて利用すると訪問しやすいかもしれません。私は筬島駅に列車で降り立ち、村営バスで音威子府駅に抜けるというルートで訪問しました。車を使わず公共交通機関で訪問する必要がある、またはしてみたい、という方は、ぜひ参考にしてください。
また、「砂澤ビッキ記念館」のほかに「アトリエ3モア」や「エコミュージアムおさしまセンター」などの名前もあります。全てこの施設を指すので、違う名前だ!と混乱しないようご注意ください。
営業時間など、詳細は以下からご確認ください。先述したように、冬季は閉館しています。十分ご注意ください。