函館線の列車に乗って比羅夫(ひらふ)駅へ到着するとき、次のような車内放送が流れます。
「ひらふ地区へおいでのお客様に、ご案内いたします。比羅夫駅からは交通機関がありませんので、比羅夫駅では降りずに、倶知安(くっちゃん)駅から、路線バスやタクシーなどをご利用ください」
あの、ではなぜその駅にとまるのでしょうか、と言いたくなります。
車内放送で降りないよう促される駅なんて、日本で比羅夫駅の他にあるのでしょうか。駅の役割と完全に矛盾していますよね。
でも、そうときたら、降りてみるしかありません。
比羅夫駅に向かう列車の車内では、大人の休日倶楽部パスを使って旅をしているおじさんと出会いました。どうやら列車に乗って郵便局を巡っている方らしいです。比羅夫駅の近くにはもちろん郵便局などありませんから、おじさんとは車内でお別れとなりましたが、降りる際に「こんなところで降りようとして運転手さんに止められるんじゃないの?」とからかわれました。束の間の出会いと別れでしたが、このような一期一会の出会いが旅の醍醐味というものです。
さて、幸い運転手さんに忠告を受けることもなく、無事に比羅夫駅に降りることができました。以前大雨の日に宗谷線・北剣淵駅に降りようとした時に、本当に運転手さんからとめられた経験もあるんですよ。はっきり降りるな!とは流石に言われませんが、いやー、ちょっとこの天気だからねーみたいな感じで心配されました。その時は大雨の影響で列車の運行もどうなるかわからない状態でしたから、とめてくれてありがたかったです。
駅舎は大きく立派です。実はこの駅、全国でも非常に珍しい駅でして、駅舎内に宿があるのです。
待合室内に扉があり、主に駅の2階部分が「駅の宿ひらふ」という宿になっています。「駅直結の宿」は全国の主要駅にもありますが、「駅舎そのものが宿」なのはかなり珍しいはずです。もちろん、この駅を取り囲む大自然を味わうための宿です。星空も綺麗そうですし、なかなか魅力的に聞こえますね。
かつてこの駅が有人駅だった頃、駅の職員が宿泊していた場所をそのまま宿に改装したそうです。
駅舎には薪が積まれています。これも宿泊施設で使用するものでしょう。
そしてこの宿の売りが、ホーム上でバーベキューができることです。この日も宿はやっているはずなのですが、誰かが出てくるわけでもなく、物音もしません。この駅にいたからといって、特に何か話しかけてくれるような雰囲気ではなさそうです。雰囲気としては正真正銘の無人駅そのものなので、これは間違えて降りてしまったらどうしたらいいかわからないでしょうね。もちろん裏を返せば、宿泊する場合もしない場合も、静かな山中の雰囲気を味わうことができるということです。
代わりに車でこの駅を見に来たおじさんが色々話してくれました。「ここで泊まっていかないの?」と言われましたが、今日はこれから函館に向かう予定なので、それは今度にしましょうか。
でも、ここで一晩過ごしたら本当に楽しそうだと感じました。
両隣は倶知安とニセコ。山線の中心駅とも言える倶知安と、外国人観光客に特に人気のリゾート地・ニセコの間に位置しています。この位置から比羅夫もきっと活気があるのだろうと勘違いされてしまうでしょう。無理もありません。
駅舎内には、なんだか怪しげな金庫も。例の番組で開けてくれませんかね。
そして外国人宛に現実を突きつけるメッセージが。スキー場として人気のグラン・ヒラフに行きたいからと言ってこの駅で降りる方がいるのでしょう。そりゃグラン・ヒラフに行きたいんだったらヒラフ駅で降りたらいいのではと思うのはごく普通の考えですよね。でもタクシーが来てくれる駅なだけいいです。ちゃんとなんとかなります。北海道にはタクシーすら来てくれない駅がたくさんありますから。
ただタクシーを呼べという張り紙を貼るくらいなら、タクシーの電話番号くらい併記してほしいものだと思うのは私だけでしょうか。あと先ほどの金庫からタクシー代を支給してくれたら最高なのですが笑
駅正面。山小屋のような雰囲気です。
こんなところ、ぜひ宿に泊まって午前3時とかに散歩してみたいですね。さぞかし神秘的な雰囲気なのでしょう。
実際の宿泊施設は、駅舎の2階だけではありません。駅横にあるコテージなども宿泊施設の一部です。
駅前にはポストもあり、1日1回集荷がきます。
これが駅前通りです。この道の先にあるのが比羅夫駅です。降りないよう注意を促されるのも納得です。
山の中。降りないよう注意を促す放送。でも駅舎そのものが宿。指折りの面白い駅だと思います。大自然を満喫しに、珍しい放送を聞きに、駅舎に泊まりに、行かれてみてはいかがでしょうか。
(2022年9月訪問時)