「なんか来ないうちにおっしゃったらどう?」
「比布・・・(ガタンゴトンガタンゴトン 列車の通過音)」
「聞こえた?」
「ううん、何にも」
(中略)
「2、3日立っててみます?」
「僕、北比布」
「じゃあ私は南比布だ」
というピップエレキバンのCMで名前が登場した北比布(きたぴっぷ)駅。もちろん私は知らない世代ですが、聞いたことのある方も多いでしょう。名前だけは全国に放映されても、その姿を知る人は非常に少ないと思います。
北比布駅があったのは、旭川から北へ向かう宗谷線に乗り込んで30分程度のところです。旭川から比較的近く、この区間の列車本数は普通列車、快速列車合わせて1日上下12本ずつあります。一見たやすく訪問できそうな駅に思えますが、実際はそうではありません。当然快速列車はこの駅を通過しますが、普通列車でも半数が通過し、この駅に停車する列車は1日上下わずか4本ずつのみ。決して訪問が容易な駅ではないのです。

北比布駅は、板張りの短いホームと小さな待合室を持つ駅です。乗ってきた2両の列車は、後ろの1両が完全にホームから外れてとまっています。周囲は田園が広がるため、冬は辺り一面銀世界。遠くに何軒か人家が見えるものの、雪原の中と言って差し支えないでしょう。

乗ってきた列車は雪の中に消えていきました。

降りしきる雪は止みそうにありません。日が暮れるにしたがって、雪の色も空と同じ色に染まっていくように感じます。

駅前通りの様子です。360度同じ色の世界が広がり、方向感覚を見失ってしまいそうになります。当然のように、標識も街灯もありません。

真冬の道北の寒さは半端ではないです。でもだからこそ風景は美しいです。線路はずっと直線が続いており、なんだか距離感覚まで麻痺してしまいそうです。

待合室は2人入れば満員の大きさです。室内には、申し訳程度に小さな裸電球が1つあります。自分の体で影を作ってしまうと、手元が見えなくなるくらいの明るさです。
実はこの待合室、2014年に建て替えられたばかりの新しいものだったりします。

待合室は物置としても使われています。除雪用スコップが大小2つ置いてありました。待合室自体は簡素なつくりで、床は砂利敷きとなっています。

踏切が鳴り、通過列車が駆け抜けていきました。雪は風に流されるほど軽く、地上の雪が舞い上がります。

小さな待合室、中は決して明るいとは言えないのですが、このように見ると明るく見えますね。風雪を凌げるだけでもありがたい存在です。

木の温もりを感じる待合室。簡素で小さいはずですが、妙に貫禄を感じてしまいます。

ホームを照らす照明はひとつです。毎日ほとんど誰もくることのないホームを照らし続けているのでしょう。

駅のすぐ横にある踏切です。すごいロケーションだということがわかると思います。夜の帳が下りてきて、幻想的な風景が広がります。

暗くなってくると、雪も風も激しさを増してきました。

どっぷり日が暮れれば、周囲は漆黒の世界になります。この駅だけが光を放ちます。

極寒の中ですが、踏切の黄色い明かりが、あたたかい雰囲気を醸し出します。北の無人駅、その響きにふさわしい雰囲気でしょう。
(以上2021年2月訪問時)