函館は、歴史的建造物が沢山あります。本当に数えきれないほど沢山あります。赤レンガ倉庫、函館区公会堂のような超メジャーなものから、領事館、教会群など多くの観光客が訪れる場所、そして相馬株式会社などさらに函館の歴史に踏み込んだことのある人が感激する場所まで、本当に多岐にわたります。
でもでも、それに留まりません。函館には「隠された」歴史的建造物が沢山あるのです。それは、観光ガイドブックはおろか、地図にも載らない。案内板すら立ってない。ほとんど誰も知らない、けれど歴史的に価値のあるもの。そんな建物です。
誰も知らない函館の歴史的建造物を見ていこう
「誰も知らない函館の歴史的建造物」は、本当に沢山あります。非常に歴史的な価値の高い建物なのに、「地図にも載らない、案内板もない、誰にも知られていない」建物が函館には沢山あるのです。

例えばこちら。こちらの建物は昔の質屋さんです。「質屋」と言っても、現在ではピンとこない方も多いかもしれません。簡単に言えばお金を貸す業者のことです。ただそのお金を貸す際の手続きが独特で、お金を借りる際は高価な貴金属など、価値のあるものを質屋さんに預け、それと引き換えにお金を借ります。そしてお金を返す際に、預けておいたものを質屋さんから返してもらう、という仕組みです。
そんな質屋さんですが、昔の落語等でもよく出てくるのですが、一部には「質屋を利用するのは恥ずかしい」という風潮もあったようです。この質屋さんも、よく見ると玄関が並んで2つあります。右側が普通の玄関、左側が客用玄関なのですが、なんと写真を見て分かる通り客用玄関の大きさと普通の自宅の玄関が、ほぼ同じ大きさで作られています。普通のお店だったら客用玄関の方を大きく立派に作るのが普通ですが、この建物では客用玄関が目立たない作りになっているのです。こんなところがかつての質屋さんらしいと言えますね。
もう一つ例を挙げてみましょう。こちらです。

この建物は函館らしい、典型的な和洋折衷の作りをしています。こちらは現在はレストランとして使われていますが、かつてクリニックだった建物です。この建物も、本当に函館を象徴するような素晴らしい作りの建造物でありますが、何の看板もありません。
このように、函館には「実際はとっても貴重な歴史的建造物なのに、なぜか名所とはなっていない」建物が沢山あります。上にあげた例はほんの一例で、実際には本当に沢山あります。
なぜ、誰にも知られていない歴史的建造物が沢山あるのか
でもおかしくないでしょうか。なぜこんなに魅力的で、貴重な建物なのに、何の看板もないのか、誰にも知られていないのか。答えは一言で言えば簡単で、「文化財として登録されていないから」なのです。でも疑問に思いませんか、これだけの歴史的な建物なのに、文化財に登録されていないのです。
実はこれらの建物は、もちろん登録しようと思えばすぐに文化財になるような価値を有している建物です。ではなぜそれなのに文化財ではないのかと言えば、意図的に文化財への登録を避けているということがあるのです。
実は文化財に登録されることは、メリットだけではなく、大きなデメリットもあります。文化財に登録されることは、その所有者が文化財を守る義務を負ってしまうということなのです。これは結構厄介で、自分で「ここを工事したい!」と思っても工事するのに許可が必要になり、その申請も文化財保護の観点から厳しく見られ、所有者の方が好きなように工事をしたり改築をしたり、といったことができなくなるのです。ほんの一部を工事するだけでも、長く煩雑な手続きが必要になるほか、その工事費用も高くついてしまう傾向にあるのです。
でも、「文化財に登録されれば、函館市から補助金が出るのでは?」ときっと皆様は思われるでしょう。確かに手続きは煩雑になっても、工事をする際に補助金をもらえるわけなので、維持費用が軽減されるのではないか、ということです。そして、まさにそこにポイントがあるのです。
函館市の場合、文化財に対して出される補助金が非常に少ないのです。だから、文化財に登録されてちょっとやそっと補助金が出たところで、「文化財に登録されない方が維持費用が安い」ということだってザラにあるのです。
ではなぜ函館は文化財に出される補助金が少ないのか。これにはやむをえない理由があります。皆さんも想像できるでしょうが、函館は文化財が多すぎるんですよね。1つ1つに手厚く補助金を出していたら市の予算はそれで全部消えてしまうのです。だから、それぞれの文化財に対して出せる補助金は少なくなり、だから建物の所有者にとっては文化財に登録されるよりも登録されない方がメリットが大きくなり、「文化財ではない超貴重な建造物」が街中にゴロゴロあるというわけです。
貴重な建物が多すぎる故の苦悩
函館市は、本当に魅力的な街です。歩けば歩くほど、その面白さに気付かされます。そのくらい魅力的です。多分私もすでに10回くらいは函館を旅行していますが、何度行っても新しい発見があり、決して飽きることがありません。「なんでこんな場所が知られていないんだ」という場所は沢山あります。函館は確かに今でも世界的に人気の観光地ですが、まだまだ知られていない隠れた魅力も多く、今ある観光資源を最大限PRできたらとんでもない観光都市になるポテンシャルを未だ秘めていると思います。
でも、そんな場所だからこそ、「すごい場所」を全て前面に押し出せない苦悩があるのが函館、そんな印象を受けます。今ある観光地の維持管理だけで精一杯で、他にもすごい場所、すごい歴史、すごい文化があるのに、そちらの管理やPRにはなかなか手が回らない、ということです。
本記事で紹介した建物、またそれに類似する建造物等は、個人の所有物で、文化財でもないため、本記事で場所等を紹介し観光ガイドのようにするのは適切でないと考えているので、場所等の公開はしません。しかし、函館には誰にも知られていない魅力が山ほどある、ということはぜひ皆さんの頭の片隅にでも入れていただければと思います。「函館はいったことあるからもう行かなくていい」という方。きっとあなたはまだ函館を何も知らないですよ。
そう偉そうにいっている私も、知っているようでいながら、知っているような口を叩いていながら、まだ全然知らないと思っています。でも、本当に奥深い街であることは、ほんの少しだけは知っているつもりです。

